マルちゃん、またあさが
きてくれたよ
「朝のいのり」
紺色の制服を着て、カバンをさげ、中学校へいこうとする娘に、私はかたりかける。
いってらっしゃい、気をつけてね。
赤ちゃんだったあなたを抱いて、ママは待っていますよ。
今朝は雪が降っているから、赤ちゃんを暖かくくるんで、窓から雪をみせてあげましょう。
赤ちゃんは風邪をひきませんよ。
だから、あなたもケガをしないでね。
ママはあなたを、だいじにだっこして、待っていますよ。
ほら、赤ちゃんのあなたが、今日のあなたに、バイバイしていますよ。
いってらっしゃい、気をつけてね。
(作詞 山本沖子/「詩の中の風景」著書石垣りん 1992年発行 婦人之友社より)
長崎原爆の日の今日、鎮魂を祈りたくて、私が選んだのは、この詩だった。
いってらっしゃい、そんなおだやかな朝をかえてしまった出来事だったということか、わからないけれど、どれだけおかあさんが学校に行く子どもに語りかけた言葉だろう。
でも「赤ちゃんだったあなたを抱いて……」と語ったのは山本さんがはじめてかもしれない。
山本さんの詩を読んで、誕生のそのときから、子どもはすでにおかあさんから出発していたのだと感じた。
胸の中で何年も記憶している詩。
今、私は自分の言葉が欲しいと思っている。これだけはいいたい、心が存分に手足を出したいと思っている。
8月9日、原爆投下予定地は福岡、小倉だったという。
いってらっしゃい。
そのあと、子どもたちは帰ってきましたか。
かつての時間に語りかけている。
いまのしあわせはね
かなしいできごとにないたひとびとの
みらいへのいのりだとおもう
うちのにゃんこどもたち
きょうのごきぶん、いかがですか?
いつもとかわらず
ごはんたべようね
ねんねしようね
いっしょにいるよ
(2018年8月9日、マルの闘病中に記す。)